サヨナラ、セカイ。
スクラブでもスーツでもなく。ボタンダウンシャツの上にセーターをかぶり、カーキ色のカラージーンズを履いたカジュアルなスタイルを見るのも初めてだった。

カバーを掛けてソファ仕様にしてあるベッドに並んで座り、小ぶりなカフェテーブルにはマグカップが二つ。今の自分の心情をどう伝えたらいいのかと、言葉を探して黙り込む。

先生には。コノセカイがどんな色に見えているんだろうか。

わたしと混ざったら変わるかもしれない色を。愛って呼ぶんだろうか。

もうずっと、わたしも意味を考えるのをやめていたから。錆びついた回路は思うとおりに動き出してはくれない。ただ。今ここに在るだけの自分を曝して、あとは先生が決めることだ・・・と。

「・・・先生」

「ん」

「わたしは5年前に離婚して今は独身です。付き合ってはいませんけど、前の職場の上司が時々ここに来ます。・・・先生が嫌だって言うなら会うのはやめます。どうして欲しいですか・・・?」

わざと。相手に委ねるズルいやり方。
わざと。先生を試す。

・・・・懸けてみたくなったのかもしれない、わたしも。先生が、セカイに意味をくれるのなら・・・って。
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