サヨナラ、セカイ。
「彼女の要求をすべて飲むなら、俺は沙喜の人生を滅茶苦茶にするだけの男だな」

深く息を逃すとナオさんは眉を下げ、思い切ったように小さく微笑んだ。

「黙って言いなりになるつもりはないよ。もちろん取るべき責任は取らなきゃならない。正直に言えば楽な暮らしはできないだろうし、沙喜に頼ることもあると思う。もしどうにもならない時でも笑い合って二人で乗り越えてくのが俺の描く幸せだ・・・って言ったら、現実から逃げてるただの甘ったれだって呆れる?」

じっと見つめながら言葉をひとつずつ飲み込んでくわたしから、一度も視線を逸らさずに彼は続ける。

「俺の家は同級生に比べたら貧乏でね。それでも母の明るさで自分を不憫だって思ったことは一度もなかった。愛情に勝るものはないって教えてもらったんだ。でも沙喜の描く幸せが違うなら・・・、今ここで俺を振ってくれないか」

そんなこと。首を横に振った。胸元にすがりついて顔を埋める。絶望的なくらい自分がなにを欲しがってたのかを思い知った気がした。

「沙喜・・・?」

ナオさんが戸惑い気味に。そして優しく髪を撫でてくれる。

乾ききった大地に降る雨なんてない。そう思って生きてきたから。この雨粒は優しすぎて染みこむにはきっと足りない。・・・足りない。

「・・・ナオさんさえいてくれたらいいの。わたしだけを愛してくれるんだったらお金の苦労なんてどうでもいい本当は」

声が詰まる。

「連れて行きたいならどこでも連れてって、離さないで」

もっと。がんじがらめに捕まえて身動きできないくらいに思い知らせて。ココロに染みこむまで。

「最期はナオさんに壊されて死にたいから」

それがわたしの願い。
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