サヨナラ、セカイ。
翌朝。クリニックに電話をかけた。定期検診の予約日はまだ一週間ほど先だった。
『少し歯茎が腫れてる感じがするんです』
嘘を吐き、午後に診察を捻じ込んでもらった。・・・手がかりが欲しかった。確かめないではいられず。
少し順番を待ち、呼ばれて診察台に座る。パーティションで仕切られてるけれど隣の様子は筒抜け。患者さんに話しかける聞き覚えのない声、ナオさんより少しトーンが低めの。・・・・・・ああ。アナタハ、イナイ。ゆっくり奈落の底に落ちていく。
落ちながら砂になっていく。サラサラと流れてく。
「新宮さん、お待たせしました」
落ち着いた話し方。顔を横に振り向ければナオさんより少し小柄な印象の、マスクに隠れていない丸い目がこっちを見ていた。
「井上といいます。今日は私が担当させてもらいますので宜しくお願いします」
今日は?じゃあ次は・・・?!
「次回は吉見先生なんですね?」
咄嗟に口から飛び出していた。念押しするような言い方だったかもしれない。井上医師は事務的な、でも冷たくはない口調で答えた。
「その辺りのことは私ではちょっと分からないんですけどね。新宮さんのケアは責任を持って引き継ぎしてますから安心してください」
『少し歯茎が腫れてる感じがするんです』
嘘を吐き、午後に診察を捻じ込んでもらった。・・・手がかりが欲しかった。確かめないではいられず。
少し順番を待ち、呼ばれて診察台に座る。パーティションで仕切られてるけれど隣の様子は筒抜け。患者さんに話しかける聞き覚えのない声、ナオさんより少しトーンが低めの。・・・・・・ああ。アナタハ、イナイ。ゆっくり奈落の底に落ちていく。
落ちながら砂になっていく。サラサラと流れてく。
「新宮さん、お待たせしました」
落ち着いた話し方。顔を横に振り向ければナオさんより少し小柄な印象の、マスクに隠れていない丸い目がこっちを見ていた。
「井上といいます。今日は私が担当させてもらいますので宜しくお願いします」
今日は?じゃあ次は・・・?!
「次回は吉見先生なんですね?」
咄嗟に口から飛び出していた。念押しするような言い方だったかもしれない。井上医師は事務的な、でも冷たくはない口調で答えた。
「その辺りのことは私ではちょっと分からないんですけどね。新宮さんのケアは責任を持って引き継ぎしてますから安心してください」