サヨナラ、セカイ。
わたしが知ってるあなたなら言うだろうと思ってた。だから怯まなかった。

「・・・他にもあるでしょう、言いたいこと。聞くからぜんぶ言ってナオさん。本当はわたしにどうして欲しいかちゃんと言って・・・!」

ナオさんが目を逸らした。堪えるように項垂れた。・・・初めてだった。いつも躊躇なくわたしに手を差し伸べてくれた人が自分でその腕を押さえ込み、望むことを諦めようとしていた。

わたしの手は、母にも別れた夫にも届かなかった。伸ばしたのに届かなかった。でもナオさん、ナオさんの手は届くの。わたしから伸ばして待ってるの。だから。

「愛してるなら諦めないで・・・っ、お願いナオさんっ」

沈黙した彼を辛抱強く待った。どれだけ葛藤してるだろう。どれだけ不安で、どれだけ・・・!

「俺は」

呟きが漏れた。わたしは応えるように強く握り返す。

「・・・いつか沙喜が俺から離れてくのが恐いんだよ。愛情だけでどうにもならなくなる時が必ず来る。今なら一人で生きる覚悟がつけられる、諦められる。・・・・・・そう言い聞かせながら、独りにしないでくれって縋りつきたいんだ沙喜に。見捨てないでくれって叫びたいんだ、弱くてしょうがないこんな俺を・・・!」

その瞬間。立ち上がって、片手で顔を覆ったあなたの頭を腕の中に閉じ込めていた。
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