兎月鬼~とげつき 月が奇麗ですね~
 私は彼女を見つめながら部屋へ入った。


「人間じゃない……私も鬼よ。兎月鬼、そう呼ばれてる」


 そう言うと、今度は彼女が驚いたみたいだった。


「そう……あんたも『兎月鬼』なのね……」

「貴方も……?」

「あたしも同じ。同じ、兎月鬼よ……」


 地上にいる別の種族の鬼だと思っていた。だってまさか地上で、同じ兎月鬼に会うとは思わなかったから。

 私たちが地上へ降りる時に繋げる、鬼の道。造る者によって様々な出入り口が出来る。でもそれは、他の者と同じ場所になる事はほとんどないと聞いている。鬼の数だけ道もあるのだと。

 それに……兎月鬼が地上へ降りるのは、十八歳の繁殖の時だけ。もともと兎月鬼はそれほど多くない。その中で、自分と同じ年の者はどれだけいるだろう? 多分、片手で足りる程だ。

 だから、地上で同じ兎月鬼に会う事なんてほぼあり得ないのだ。

 驚きのあまり声も出ない。だけど、感じる……自分と同じ匂い……


「……あ、貴方も、繁殖で降りてきたの?」

「そう……でも、ひと月以上も前にね」


 また驚いてしまう。だって、地上にひと月以上もいるなんて……

 驚いている私を見て、彼女は可笑しそうに笑った。


「あり得ない? そう思ってるんでしょ。でも本当よ、あたしがここへ来たのはひとつ前の満月だもの」

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