兎月鬼~とげつき 月が奇麗ですね~
 確かに、誰彼構わず食べてしまうと、人間の世界では大騒ぎになってしまうだろう。下手に警戒されると、今後の兎月鬼がやりにくくなる。

 美兎の言う通り、ターゲットに近づいて誘い出し、こっそりと食べてしまうのがベストなのだ。


「――――でもね、やっとあたしも出来そうなの!」


 美兎はそう言って嬉しそうな笑顔を見せた。口の端に乾いた血が少しこびり付いていたが。


「一人、若い男と親しくなれて……もうすぐ、もうすぐ食べる事が出来るはず……!」


 その男を食べる事が出来なければ、きっと美兎は死んでしまうだろう。小動物を食べてまだ元気そうな振りをしているが、本当は体はボロボロなはずだ。鬼の力もたぶん、ほとんど残っていないと思う。

 これが最後のチャンス……


「あたしはあんたの邪魔をしない。あんたもあたしの邪魔をしない。それでお互い、いいんでしょ?」


 美兎はそう言うと、洋館を去って行った。彼女には彼女の寝床が何処かにあるんだろう。私は彼女が残した鳥の羽や血の跡を始末してその痕跡を奇麗に消してから、二階へ上がり眠った。
















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