兎月鬼~とげつき 月が奇麗ですね~
 ……勇樹の気持ちが痛い程分かる。

 自分の好きだった子が、いきなり人じゃない鬼だと言われ、自分を食べようと近づいてきたなんて……騙されていたなんて。

 信じられないし、信じたくもない。

 それに勇樹が好きだった美兎は死んでしまった。

 あり得ない現実に、心が追い付かないんだ……


「勇樹、心配しなくていい。兎月はここを離れるって言ってたから。今はまだ、あの洋館にいるけど……じきにいなくなる……もう、大丈夫だ」


 洋館に引き留めているのは俺だ。気持ちの整理が出来るまでとムリに兎月を留まらせてる。

 このまま別れて忘れるなんて出来ないと思ったんだ。


「――――ちょっとまてよ、陸……」


 泣いていると思っていた勇樹が顔をあげ、立ち上がる。頬にはまだ涙の跡がついていた。


「いなくなるって、何だよそれ……俺たちをこんなめに合わせといて逃げるのかよ」


 混乱と悲しみから、勇樹の感情はまた怒りに変わってしまったみたいだった。静かな声だが震えている。


「違う、勇樹。こんな事になったから……悪いと思ってるから俺たちの前から姿を消すんだと思う」

「悪いと思ってるって……どうせ他の場所へ行ったら、他の人間を食うんだろ?! また同じじゃねーか!」

「それは……」

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