兎月鬼~とげつき 月が奇麗ですね~
 ――――目を閉じると、身体中の細胞が徐々に入れ替わってゆくのを感じる。血がたぎり、うぶ毛までもが逆立つような感覚。

 ゆっくりと目を開けると、暗闇がやけに鮮明に見えるようになっていた。


「……兎月」


 鬼になった私を見て、陸は何ともいえない表情だ。でもそれは恐れや怒りではなく、苦しいような悲しいような、そんな顔。


「陸……鬼の急所を教えてあげる」


 これから先、私以外の鬼にまた出逢うような事があっても、それを知っていれば『鬼退治』出来るから。


「喉と角……喉元を掻っ切るか、角を折れば鬼は死ぬ……」


 私はゆっくりと自分の角に片手を掛けた。

 死ぬのなら、角を折ろうと思っていた。だって、陸の目の前で喉を掻っ切って血まみれになるなんて嫌だから。

 せめて奇麗な身体のまま、砂になりたい……

 角を掴んでいる手にぐっと力を入れた、瞬間――――


「――――やめろ!」


 彼の髪から太陽の匂いがした。大きな声と体温。動くことが出来ないくらい強い力で、私は陸に抱きしめられていた。

 振り払う事は鬼になった私には容易く出来ただろう。だけど、そうはしなかった。

 だって……私を抱きしめる陸が、震えていたから……
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