抑圧的ラブソング
彼の音楽に、胸を打たれることに心地よさしか感じていなかったわたしに、どうしたら戻れるんだろう。
もし戻れるとするなら、わたしは彼と出会わないようにしただろう。
出会わないように、どんなに遠回りになってもあの駅には行かないようにしたのに。
そうして、手の届かない人になった彼を画面越しに、機械越しに見つけられたらよかったのに。
そうだったらきっと、雲の上の人だからって。
すてきなラブソングを歌う、かっこいいバンドマンだって。
ただ純粋に彼が乗せたおもいに、言葉に耳を傾けることができたはずだから。
あの日、出会わなければよかった。
どうして出会ってしまったんだろう。
なぜ、出会わないといけなかったんだろう。
そんなことばかりおもうのに、あのときあの人を見つけていなかったら、わたしの人生なんてただ退屈でありふれたものになったんだろう、ともおもう。
わたしが、書いた詩のような。
鳴り止まないスマートフォンが、わたしの未練の象徴だった。