抑圧的ラブソング
別に代わり映えのしない日常だった。
いつも、わたしはただ音楽を奏でていた。
そうして、自分の音楽はすてきなものなんだって自惚れていたんだ。
溺れそうな湿気の中、いつもは自転車で行くくせに、その日はなぜか電車で行ったスタジオの帰り。
駅前で、たったひとりアコギを柔らかく鳴らして歌う人がいたから、足を止めた。
人はそんなに集まっていなかったけれど、すてきな詩と、歌声に心を奪われた。
わたしが聞いた中での一曲目が終わったかとおもったら、何かを気にするようにキョロキョロして、それから、げって顔してさっきまで音を奏でていたギターだけを持って走り出した。
あとに残ったのは彼の荷物らしき鞄。
彼が見ていた視線の先には、ケーサツがいて、そういうことか、とおもった。
ただ、もう二度と会えないかもしれないとおもったらいてもたってもいられなくなって、彼を追いかけた。
確信なんて、ほとんどなかったのに彼の荷物もいっしょに持って。
興奮覚めあらぬままに。
過度な湿気に当てられながらも。
走って、走って、走った。