都合のいい女になるはずが溺愛されてます
佐久間陸はクズに間違いない。
しかし営業で鍛えたその話術は巧みなものだった。
聞き上手で話し上手、ずっと話していても退屈しない。

適当に飲んですぐ帰る予定だったけど楽しくて長居してしまった。
おかげで酒が進む。




「遠藤さん?」


……今、何時だろう。
いい感じにお酒が回って気持ちいい。このままコロッと寝れたら最高なのに。


「酔っちゃった?」


目をつぶるとふわふわと佐久間の声が聞こえる。
こいつクズのくせにいい声してるな。結構好きな声。


「……かわいい」

「っ……」


だけど唇に感触がして目を開いた。
……今、キスした?いやそんなわけない。
しかしいつの間にか正面に座っていたはずの佐久間は私の隣に移動して、なおかつ私を抱きしめている。


「嫌がんないの?」

「……」

「あは、よかった。ちゃんとこういう欲あるんだ」


佐久間の顔が近づいてきて思わず目をつぶる。
今度はリップ音を立ててわざとらしいキスをしてきた。

本当に見境がないにも程がある。
呆れて声も出なかった。


「個室にしてよかった、こういうことしても周りにバレないから」


この至近距離で見ても綺麗な顔。伏せた目元の長いまつ毛が揺れて、それから目線が合った。


「この後ウチくる?」

「……は?」


酔っ払って正常でないとはいえ、佐久間の家に行ったらどうなるか分かってる。
でも、飲みすぎて動くのも億劫だ。なら佐久間の家で少し休ませてもらいたい。
そんな名目でその問いかけに頷いた。
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