都合のいい女になるはずが溺愛されてます
温泉から上がってメイクして、髪はセットせずに横に流して朝食を食べに向かう。
提供された朝食は品数と量が多くてお腹いっぱいになりそうだ。


「朝はしっかり食べる派?」

「これはちょっと多いですけど割とちゃんと食べます」

「よく食べる子好き」


佐久間は『好き』の言葉とともにふにゃ、と無邪気な子どものように笑う。
その笑い方は胸がぎゅっと苦しくなるからやめて。
なんかこう、母性が爆発しそうになる。


「俺がよく食べるからさ、一緒に食べて共有したい。
けど最近上司に30過ぎたら太るぞって脅されて心配」

「ジム通ったらどうですか?」

「やだよ、逆ナンされるからだるい」

「……ジムでナンパされるって初めて聞きました」


さすが自他ともに認めるイケメン。
女が自ずと寄ってくるみたい。


「ジム通いの女子はだいたい肉食系で苦手。なんかがっついてるあの勢いがこえー」

「偏見でしょ、そうじゃない人もいますよ」


他愛のない会話をしながらふと佐久間の朝食に目を移すと、皿がほとんどほとんど空になっていることに気がついた。
食べるの早っ、急がなきゃ。


「ゆっくりでいいよ、俺ちょっと道調べる」


急いでもぐもぐ食べ始めたらスマホを取り出して何かを調べている。
気を使ってくれてありがたい。


「道?」

「仁奈この辺の美術館行きたいって行ってたから。なんか映える彫刻があるところ?」

「あ、そうだった。行きたいです」

「車でこっから30分くらいって。飯食ったら準備していこ」


次の予定が決まったのでご飯をかきこむように食べる。
口の中がいっぱいの状態でごちそうさまと手を合わせたら「そんな急がなくていいって」と笑われた。
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