都合のいい女になるはずが溺愛されてます
ゴールデンウィーク明けの出勤日、社内の休憩室でお昼ご飯を食べていたら前の席に誰かが座った。


「仁奈、お昼に会えるの久しぶりだね」

(こころ)、久しぶり」


声をかけてくれたのは私と同期で受付嬢の前川(心まえかわ こころ)
綺麗な声と優しい笑顔で人気の社員だ。
化粧っ気のない私と違い、髪もメイクもバッチリ決めていて今日もかわいい。


「なんか仁奈と一緒にいるの落ち着く」

「ね、今や数少ない同期だから」

「それ、去年同期の寿退社多かったもんね〜」


仲のいい心と話すのは楽しい。
けど、寿退社の話題が出て気分が沈む。
私だって30までに子どもほしいからそろそろ本気出さないといけないのに、クズ男を好きになって何やってるんだろう。

──はぁ。

思わずため息をついたら、まったく同じタイミングで心とため息が被った。


「仁奈、もしかして男関係?」

「まさか心も?」

「……うん」

「じゃあ、心からどうぞ」


どうぞと促すと、心は昼食のサンドイッチを食べながら話してくれた。



「……え、取引先の社長に迫られてる?さすがうちの会社の看板娘」

「うん……悪い人じゃないんだけど、結構強引に話進めるから困ってて」

「困ってるって言いつつにやけてますけど?
ねえ、ぶっちゃけ満更でもないのでは?」

「……実は学生時代から好きだった人……」

「それはおめでとう。結婚式には呼んで」

「まだ気が早いって、付き合ってもないから。
それにお金持ってたら、寄ってくる子はたくさんいるだろうし……」


その悩み、分かるなあ。
見えない影に怯えるのはつらいよね。
心には私と同じ思いをしてほしくないから幸せになってほしい。


「で、仁奈はなんのため息?」

「簡潔に言うと、クズ男に引っかかって関係がずるずる続いてる感じ……」


同情してしまったせいか、私はこの時初めて自分の置かれた状況について語った。
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