都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「昨日もいたから今日もいるかなと思って覗いただけ」


佐久間は口元から缶コーヒーを離して首をかしげた。


「迷惑?」

「迷惑って言うか馴れ馴れしいです」

「出た、久々聞いたそれ」


ある程度予測していたであろう答えなのに佐久間は嬉しそうだ。


「つーかふたりで旅行まで行っておいて馴れ馴れしいはないだろ」

「そうですね、語弊がありました」


早く会話を終わらせたくて喋ったら、それが伝わったのか佐久間はつまらなさそうに顔をしかめた。


「ねえ仁奈、なんで職場で俺といるの嫌なの?」

「変な勘違いされたくないです」

「勘違いって?」

「付き合ってるとか、そういうのです」


佐久間はふぅんと曖昧な反応を示して、口に持ってきた缶コーヒーを傾ける。
自分で聞いておいて何その反応。


「……ごめん、俺がいるとメシ食えないね」


突然立ち上がった佐久間は私に背を向けた。
相変わらず読めない人。
その背を見つめていると佐久間は手をひらひらさせながら遠ざかっていく。


「じゃあまた週末」


考えてる事は今でも分からないけど、律儀に毎週しっかり来るのは変わらない。
ほんと、変な人。そんなやつに惹かれてる私も変なのかもしれないけど。
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