都合のいい女になるはずが溺愛されてます
頭を下げてお願いしたけど返答はなし。
顔を上げると佐久間は悪い顔をした。


「なに、実は彼氏いるのにヤっちゃったとか?」

「私は佐久間さんほどクズじゃないです」

「はぁ?俺も彼女はいねえよ」


彼女「は」ね。セフレは星の数ほどいるんでしょ?
その中にはきっと彼女になりたい人だって含まれてると思う。


「じゃあ、佐久間さんが盛大なビンタ食らってた白井しらいさんは?」


あの日泣きそうな顔で会議室から出てきた受付の白井さんだってそうじゃなかったのかな。


「ああ、一回ヤってから何回か会ってたけどほかの女と連絡取ってるの見てキレられてあのザマ」

「よくビンタで済みましたね」

「なんで?付き合おうなんて俺言ってねえし」


その一言は私に言われたわけじゃないのにグサッときた。
その気にさせといてそれは無いのでは?
なるほど、正真正銘のクズだ。女の敵だ。


「そんなことより、これなに?」


佐久間はポケットから1枚のメモ用紙を取り出した。
そこには『飲み代です』の私の字が。
そういえば私、佐久間が寝てる間にメモとお金を置いて出たんだった。


「一銭も払わずに立ち去るのは後味が悪いと思いまして」

「いらないから仁奈の連絡先ちょうだい」

「は?」


馬鹿なの?クズと仲良くなりたいなんて思うわけないでしょ。
けどこいつの余裕の顔からして、それでもいいとついてくる女がほとんどなんだろう。

いつか自分が本命になれるかもしれないと願って。


「教えたくないのでお金は受け取ってください」


けど私はそこまで夢見がちな女じゃない。
ぶっきらぼうに吐き捨てて給湯室から出た。佐久間は追ってこなかった。
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