都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「嘘……」

「嘘だったらこんなダセー引き止め方しないって。
仁奈に終わりにしようって言われて焦ってる、ほら」


掴んだ手首を自分の胸に持ってきて心音を確かめさせる佐久間。
確かに手のひらから伝わる胸の鼓動は速かった。


「ね、自分でもかなりダサいと思う」


同調を誘うように笑って、でも私は笑えるわけなくて目をぎゅっとつぶった。
鼻の奥が痛い、目頭が熱い。
急に視界がぼやけて涙がこぼれそう。

佐久間の前で泣いたら好きと認めることになる。だから泣くのは嫌なのに感情が制御できない。

佐久間はそんな私をそっと抱き寄せた。


「仁奈とは気が合うし一緒にいてストレスがない。
でもだんだん束縛したくなって疲れて、このまま付き合うと俺がダメになる気がした」


佐久間は一語一句言い聞かせるみたいにゆっくり思いの丈を告白する。
私にちゃんと伝わるように言葉を噛み締めてるみたいだった。


「けどそれはただの言い訳。
たぶん、本気で好きだから疲れるんだと思う」


本気で好きとか、安っぽい言葉。でもなによりも待ちわびていた言葉だと気がついた。

堰せきを切ったように涙が止まらない。
嗚咽を漏らしながら、脈を鼓動を打つ佐久間の胸で泣いた。
佐久間は服に涙のシミができても離してくれなかった。
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