都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「おつかれさまでーす」

「あ、おつかれさまです」


受付の人に挨拶をされて、もうそんな時間かと顔を上げる。
ん?もしかして今の白井さん?割と元気そうでよかった。
って彼女を観察してる場合じゃない。

今日の最後の仕事はエントランスに置かれた大きな水槽の掃除。
特にガラス面に生えたコケが厄介で一生懸命磨いていた。

あー、金曜だから早く帰って家で飲みたいなぁ。
そういえばもう金曜か……気がつけばあの夜から1週間が過ぎているなんて。


「遠藤さんいつもありがとう。水槽綺麗になったね」

「あっ、え……部長、お疲れさまです!」


考え事しながらスポンジで磨いていたら後ろから声がした。
振り返ったらそこに居たのは営業部の部長と……佐久間。

しかし佐久間と目が合ったけどすぐ逸らされた。
よし、いい感じ。このまま私への興味を失ってほしい。


「それ終わったら帰れそう?」

「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


部長は私の退勤時間を気にして声をかけてくれる。
さすが愛妻家で家族思いで孫を持つ部長は違う。
佐久間、ちょっとは見習え。

私の心の声とは裏腹に佐久間は一言も喋ることなくエントランスの奥へと進んだ。
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