都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「なんで逃げんの?」


距離を取ろうと思ったけど、佐久間の長い脚のせいですぐ追いつかれた。


「だって白井さんがいたじゃないですか」

「俺気にしないからいいのに」

「私は気にします」

「あっそ。ねえところでさ、今日泊まり行った時博多弁で会話してよ。
仁奈に『好いとーよ』とか言われたい」

「そうやって方言からかう人嫌いです」


腹立つ、福岡県民は『好いとーよ』なんて言わないし。
なんで他県民にそれが浸透してるか知らないけど。


「仁奈、怒ってる?なんかごめん」

「……急いでるので失礼します」


なんかごめん、というフレーズに余計腹が立って早足で佐久間を引き離す。
理由を知らないくせに謝らないで。

後ろからの足音が消えたので振り返る。すると佐久間は眉毛を下げて困り顔で私を見ていた。
それでも許せないと思うのは心が狭い証拠。

そんな心の狭い私が、女の影に怯えてこの人と付き合うなんて無理かもしれないと思った。
< 161 / 263 >

この作品をシェア

pagetop