都合のいい女になるはずが溺愛されてます
それから押し問答が続いて結局私が根負けした。
佐久間は何食わぬ顔で私が住んでるマンションについてきた。

あーあ、こんなはずじゃなかったのに。
しっかり断ったのにあの手この手で丸め込まれて成す術がなくなった。


「へえ、綺麗にしてるんだ」


部屋に入った佐久間の第一声がそれだった。
よかった、昨日掃除してて。


「先にシャワー浴びます?」

「いいよ仁奈が入ったあとで」

「あの……臭いがこもると思うので先に入ってもらった方がありがたいです」

「あー、ならそうする」


でもまだ詰めが甘いと思うから佐久間がシャワーを浴びてる間にもう少し掃除をさせてもらいたい。

……あれ、なんで佐久間相手に気を使ってるんだ。幻滅して離れてくれるいいチャンスでは?

でも遠藤仁奈の部屋は汚い、なんてレッテル貼られたくないし。


「荷物と上着預かります。バスルームはあっちです」

「うん、ありがと」

「あ、タオルは洗濯機の上の収納から取ってください」

「はーい」


半ば強引に荷物と上着を剥ぎ取ってバスルームにぐいぐい押し出す。

しばらくしてシャワーの流れる水音が聞こえてきたので細かいところの掃除を始めた。
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