都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「佐久間くん、今少し手を借りてもいいかな」

「はい、大丈夫です」


考えながら廊下を歩く。すると後ろから部長の声がして振り返った。
菩薩のような笑顔の営業部のトップ。
普通のおじさんなのに癒されるのが不思議なんだよなぁ。


「岡田くんの初のプレゼンが明日に控えてるからどんな調子か少し見てあげようと思って。
一緒に佐久間くんがいてくれたらあの子も……」


そう言って会議室のドアを開けた部長の言葉が途絶えた。
そこにいたのはプロジェクターを触るふたりの女。
見慣れない顔だな……って、例の新卒か!
こいつら絶対、仁奈が設定したプロジェクターに何かしただろ。


「部長、お疲れ様です」

「君たち、ちょっといいかな」


案の定慌てだしたふたりの様子を部長は見逃さなかった。
冷静に呼び出した部長の表情は、いつの日か不倫した営業一課の課長を呼び出した時と同じ顔だ。


「えっと、その、私たち先輩に呼ばれてて」

「すぐ行かなきゃいけないんで、失礼しま……」

「上司に呼ばれたらすぐ来い!」


突然、広い空間に部長の激昂した声が響く。
その瞬間俺が怒られてるわけじゃないのに冷や汗が出てきた。
やばい、年に1回あるかないかの部長の大激怒だ。
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