都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「ねえ、開けてみてよそれ」


佐久間は私がギュッと握っている箱を指さす。
言われた通り開けると、中に入っていたのはネックレスだった。


「指輪じゃなくてネックレスにしてよかった。
それなら普段使いできるでしょ」


婚約指輪欲しいのかって聞いてきたの、こういうことだったんだ。
抱えていた不安が全部杞憂だったと判明した。
と同時に鼻の奥にツンとした痛みを覚え、視界がぼやけた。


「泣かないで仁奈ちゃん、明日ひどい顔になっても知らねーから」

「だってさっきプロポーズ見た時、嫌な顔するからそういう気ないんだと思って」

「違う違う、俺も今日プロポーズするつもりだったのにかぶったからヤバイって思ったの」


泣き出した私を抱きしめながら「バレたらカッコ悪いじゃん」と呟いた佐久間。


「仁奈が空元気だったのそういうことか。大丈夫、結婚したからにはちゃんと責任取るよ。
けど、不安にさせてごめんね?」


佐久間はずるい。その優しい声でごめんと言われたら許すに決まってる。
なんだか悔しくてでも嬉しくて、その気持ちを言葉にする代わりに佐久間に抱きついた。
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