都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「とりあえず新婚旅行は箱根でカニね」

「覚えてたんですね、年末年始箱根行こうって言ったの」

「俺が提案したから覚えてるよ。結婚してから行くことになるとは思わなかったけど」


私だって当時は付き合ってもなかったから、佐久間とこういう結末を迎えるとは思わなかった。
あの頃はバッドエンドしか描けなかったのに。


「『佐久間仁奈』って違和感ないからいいね」


それにしても、誰がこんなにだらしなくニヤニヤしてる佐久間を想像できただろう。


「あと、俺のこと名前で呼べるようにならないとね」

「が、頑張ります」

「仁奈が名前呼びって新鮮だから楽しみ」


喜びを隠しきれない佐久間は、誰が通りかかるか分からないのに顔を近づけてきた。
けれど拒む理由にはならなくて唇を重ねる。
触れるだけのキスのはずが雰囲気に酔ってしまう。

だけど今日くらいいいよね。
冬空の下、ベタなロマンチックのもアリかもしれないと密かに笑った。
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