都合のいい女になるはずが溺愛されてます
それから1ヶ月後、私の名字は本当に佐久間になった。
お互いの両親は大喜びだった。
特に佐久間のお母さんは『陸が結婚なんて絶対無理だと思ってたのにありがとう』と熱烈に歓迎してくれた。

特に大きな問題なく入籍することができて一安心。
でもひとつ悩みがあるとすれば、未だに名前で呼べないこと。
ずっと佐久間さん、と呼んでたから今さら名前で呼ぶのが恥ずかしい。


「陸……」


休日の朝、佐久間が寝ているベッドに座ってぼそっと呟いてみる。
けどなんか違う気がして首をかしげる。

なんて呼んだら腑に落ちるんだろう。
陸さん、りっくん?うーん、どうしよっかな。


「おはよ仁奈。なんでブツブツ俺の名前呼んでんの?」


腕を組んだその時、佐久間のパッと目を開けて喋りかけてきた。


「起きてたなら言ってください!」

「面と向かって呼べねーからって練習してんのかわいすぎ」


バレないように練習しようと思ったのに全部バレてた。うう、恥ずかしい。


「仁奈ちゃん顔真っ赤じゃん」

「うるさいです」

「あは、からかってごめんね。
てか呼びにくいならあだ名にしたら?」

「……じゃあ、りっくんとか?」

「やめろそれは姉ちゃん思い出す」

「え、普段お姉さんにりっくんって呼ばれてるんですか?」

「うるさい」


仕返しにからかったら片手で顔を鷲掴みにされた。
自分だってバカにしたくせに、とジロっと睨んだら「変な顔」と言いながら笑われた。
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