都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「あー、聞いてた?」


佐久間は迷惑そうな顔をして私を見る。
私より2年先輩だけど、尊敬はしてないから心の中で呼び捨てしてる。


「ご心配なく、誰にも言いません」

「いやそうじゃなくて、音やばくなかった?強烈なビンタだった〜ウケるね」


いや全然笑えないんだけど。私の心とは裏腹に佐久間は笑顔で近づいてくる。


「引っぱたかれたところ赤い?」

「はい、ばっちり手形ついてます」

「はは、しばらく戻れねえわ。ねえ、ちょっと相手してよ」


確かにこの顔だったら大抵の女性は気を許しちゃうんだろうな。
けど私はパーソナルスペースを無視して話しかけてくるからイラッとしてしまった。
こちとら急いでるんだっての。


「あの、馴れ馴れしいです」


突き放すように声を発したら佐久間は目を丸くして立ち止まった。

えっと、この顔あれだ。
『今から病院行くよ』って言われた実家の犬に似ている。


「ご気分を害されたらすみません。急いでいるので失礼します」


ともかく社内で有名なクズにこれ以上の接触は避けたい。
背を向けたら「ぶはっ」って背後で吹き出す声が聞こえた。
え、笑った?思わず振り返ったら佐久間は肩をふるわせて笑っている。

……綺麗な笑顔。
なんてドキッとしたのが悔しくて、魅入ってる私に気づかれる前に会議室を出た。
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