都合のいい女になるはずが溺愛されてます
私より先に食べ終えた佐久間は食器をシンクに持って行ってから帰り支度を始めた。
遅れて目玉焼きの最後のひと口を飲み込んでから食器を持っていく。

佐久間はもうジャケットを羽織って玄関で靴を履いていた。


「泊まらせてくれてありがと、楽しかった」


同じようなことを言おうとしたら、振り返った佐久間に先手を打たれた。
びっくりして「ああ、うん……」と曖昧な返事しかできない。

すると佐久間はおもむろにキーフックから私の家の鍵をひとつ手に取った。


「あのさ、なんで一人暮らしなのに鍵2つあんの?」

「元カレの持ってた鍵です」

「ああ、なるほど……俺がもらっていい?」


佐久間はそう言いながらスーツのポケットにズボッと鍵を入れた。
は?なにしてんの!?了承を得る前にポケットに入れるな!


「ダメです、返してください!」

「大丈夫、こっち行く時はちゃんと連絡するから」

「ダメだってば!」


そのまま帰ろうとするからスーツの裾を掴んでぐいっと引っ張った。
振り返った佐久間は何食わぬ顔で私を見ている。


「今週末また来てもいいなら返す」


その口から出てきた信じられない言葉。


「ダメなら鍵持って帰って今週末押しかける」

「……ああ、もう。分かったから鍵早く返してください」

「おっけ、泊まりね。家飲みしよ、楽しみ」

「あー、はいはい」


仕方なく了解したら佐久間は鍵を元の場所に戻したあと「じゃあ月曜に」と行って爽やかな笑顔で家を出た。
……待って、あいつ週末泊まりに来るって行った?
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