都合のいい女になるはずが溺愛されてます
週が明けた月曜日、佐久間を警戒しながら業務をこなしていたら突然誰かに肩を叩かれた。
やっぱり来た!と思って振り返ったら全然違う人だった。


「ああ、ごめんねびっくりさせちゃって。今時間あるかな」

「あ……いえ、すみません。何の御用でしょう」


てっきり佐久間と思って睨んじゃった。なんて失礼な真似を。
この人、佐久間が所属する営業一課の課長だ。
30代前半で課長になったエリートで、ハンサムだから女性社員に人気って事務のおばさんに聞いたことある。


「この前の飲み会、遠藤さんが幹事やってくれたんだって?甘えちゃってごめんね」


その人が何の用だろう思ったら、飲み会のことだった。
え?総務課が関わる飲み会はいつも私が幹事やってるけど。
もしかしてまた私に飲み会企画しろとか?


「いえ、課長こそお忙しい中参加してくださってありがとうございます」

「うん、いいお店だったね。
ところで部長が遠藤さんのこと褒めてたよ。営業部の仕事も嫌な顔せずにやってくれるんだって。
いつもありがとう。お礼を兼ねて、今週末食事でもどうかな」

「私とですか?」

「うん、遠藤さんが良ければだけど」


直属の上司ではないけど、課長の誘いを断るのは失礼にあたるかな。
別に既婚者だから変な心配しないでいいし、いっか。


「金曜日なら、大丈夫と思います」

「分かった、じゃあ連絡先交換できるかな」

「はい」


スマホを取り出そうとした時、視線の隅に黒い影が見えた。
顔を上げると、今度は間違いない。佐久間が無表情でこっちを見ている。

……いつからそこで見てたの?
別にやましいことはしていないはずなのに少し焦って目を逸らした。
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