都合のいい女になるはずが溺愛されてます
『やーっと出た。なにしてんの』


初めて電話越しに佐久間の声を聞く。
別に好きじゃないのに、弱った時に声を聞いたら安心した。


「……寝込んでます」

『体調悪い?』

「38度5分……」

『は?』

「こんなに熱出たの久々でなんか笑えてきました」


佐久間なんかに体調が悪いと訴えてもなんにも解決しないって分かってる。
だから強がって「あはは」と笑ったのに自分でも引くくらい弱々しい声しか出なかった。

ああ、頭もガンガンするし最悪。


『家行くわ』


……ん?


「なんて?」

『だから、放っとけないから仁奈の家行く』


……だからなんで、佐久間はどうでもいい相手に優しくするの?
私も勘違いするからやめてよ。


「来なくていいです」

『ほんっとかわいくねーな。じゃあ頼れる人いる?』

「……いないです」

『だったら俺が行く。今から行ったら20分くらいかかるから、仁奈が寝そうだったら鍵開けといて』

「……」

『分かった?』

「うん、おやすみ」


通話を終わらせて、ソファから身体を起こして玄関の鍵を開けておいた。
オートロックだからたぶん大丈夫。回らない頭でそう考えてすぐソファに戻って目をつぶった。
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