都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「仁奈、生きてる?」


夢と現実の狭間で佐久間の声がする。
おでこにひんやりとした感触を覚えて目を開いた。


「………夢?」


視界いっぱいに飛び込んできた佐久間の顔。それくらいの至近距離で目が合った。


「夢じゃない、現実」

「あれ、オートロック……?」

「ちょうどマンションから出てきた人がいたからそっから入った。
まだ結構熱あるじゃん、病院行く?」


いつもはムカつく顔が今や菩薩に見える。
クズ男に後光が差して見えるなんて、熱が上がっておかしくなってるのかも。


「……いかない」

「なんか食べた?」

「近寄らないでください。私、お風呂入ってないから」

「へえ、俺が洗ったげようか?」


いや大丈夫、今の発言で勘違いだと気がついたからまだ正常だ。


「帰ってください」

「ごめんって、冗談」


ごめんと謝る佐久間の左手にはレジ袋が。
あ、いろいろ買ってきてくれたんだ。……優しいな。

いや、佐久間相手にときめいたなんて私は絶対認めない。
悔しくてソファに顔をうずめた。
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