都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「んぅ、っ……」


この男、どこでスイッチが入るのかまるで分からない。

しかも普通、病人に舌を絡ませるようなキスする?
でも嫌だと思えない時点で私の心はかなり佐久間に侵食されてる。


「ッ、やぁ」

「熱上がるからやめよっか。ごめん、がっついた」


ふと動きを止めた佐久間は唇を離して私と距離をとる。
やめようという割に、その瞳は私を抱いた時と同じ目をしてた。


「なんで物欲しそうな目してんの?」

「熱でぼーっとしてるだけです」


物欲しそうな目をしてるのは佐久間のほうでしょ?
……どうせならいっそ抱いてくれたらいいのに。
大切にされてるってバカな勘違いをするからやめて。


「寝よっか、俺もそろそろ眠い」

「……はい」


こうやって世話を焼いてくれるのは好意じゃなくてサービス。
こいつはいろんな女をこうやって勘違いさせてきたんだ。

そう言い聞かせないと自分が壊れる。


「仁奈、あったかいね」


私を抱きしめながらベッドで丸くなる佐久間のぬくもりを感じながら、ただ虚しかった。
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