都合のいい女になるはずが溺愛されてます
夢の中で佐久間の声がする。正面からぎゅっと抱きしめらて「仁奈」と呼ばれる声。
夢ならいいや、私もそれに応じて抱きついた。


「寝ぼけてんの?」

「……え」


まぶたを開いたら目の前に佐久間の顔があった。
完全に夢だと思ってた。なんでまだ居るの?


「俺も眠くなったから昼寝する」

「帰らなくていいんですか?」

「帰って欲しかった?」

「質問を質問で返さないでください」

「照れちゃって、嬉しいんだ。よかった」

「……」


そこは「かわいくねー」じゃないんだ。
佐久間の基準が分からない。


「あのさ、無意識?」

「はい?」

「胸当てられるとその気になるからやめてくんない?」


そう言われて、佐久間に自分から抱きついていることに気がついた。
離れようとしたら、やめてと言ったくせに指先で胸をつついてきた。


「っ……」

「敏感なところ当たった?」


ピンポイントで感じるところを触られて肩が震える。
反応してしまった自分が悔しくて佐久間を睨んだら、私の頭を胸板に押し付けて抱きしめてきた。


「ごめん、そういうつもりじゃないから追い出さないで。添い寝したいだけ」


怒ったと思ったのか言い訳をする佐久間。
本当は『そういうつもり』のくせに。
じゃないとその熱を帯びた目はなんなの?


「いい、ですよ。熱、だいぶ下がったから」

「は?」

「だってほんとは、昨日キスされた時から……したかった」


こいつの好きなように利用されたくはないけど、私がその気なら別にいいよね。
そう、これは利害の一致ってやつ。


「なにそれ、我慢した俺がバカみてぇ」


佐久間は体制を変えて馬乗りになるとキスをしながら私の服を脱がしにかかる。

1ヶ月ぶりの痺れるような快楽に身を委ねながら、佐久間のことを好きになるのは時間の問題だと思った。


「あ、っ、きもち、い」

「熱上がっても知らねえから」


耳元で囁かれた声にゾクゾクする。
こんなに熱が治まらないのはいつぶりだろう。
それは佐久間も同じだったみたいで、その日は食べて寝る以外は日付が変わるまで抱き合っていた。
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