都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「佐久間さん、熱下がりました」

「うぅん、よかったね」


昼頃、目が覚めて体温を計ってみたら平熱に戻っていた。
隣で寝ている佐久間はまだ眠そうだ。


「ありがとうございます。でも休日潰れちゃいましたね」


サラサラの髪をそっと撫でると佐久間はもごもご口を動かした。


「ハンバーグ」

「へ?」

「唐揚げとオムライス」

「寝ぼけてます?」

「俺の好物なの。お礼に今度作って」

「佐久間さん自分で作れるじゃないですか」

「自分で作ったら味わかってるから美味しく感じないんだよね。
だから仁奈の手作り料理が食べたい」


上目遣いで私を見ながら頬を緩ませる佐久間。
寝起きの笑顔ですら様になっていてずるいと思った。


「……頑張ります」

「おっ、検討しますじゃないんだ。期待してる」


楽しみにしてる佐久間には申し訳ないけど私は期待しない。
ほかの女に目移りして急に連絡が途絶えたりとかありそうだから。

そういう可能性はずっと肝に銘じて置かないと。


「あと、鍵ちょうだい。そしたらいつでも来れるから」


その考えを覆すかのように信じられないことを言い出した。


「鍵って、家の鍵ですか?」

「うん、嫌ならいいけど」


なんで鍵がほしいの?彼氏でもないのに?
意味がわからないけど別に困るような話じゃない。
職場が同じだし、人たらしなだけで悪い人じゃないってのは分かったから。


「分かりました、でも飽きたら早く返してください」

「飽きるって仁奈に?いや、しばらく通いつめるからないと思う」

「通いつめるんですか?」

「いやなら俺ん家でもいいよ」


通いつめるとドヤ顔で宣言した佐久間の真意が全く読めない。
そんなことされたら急に捨てられた時に立ち直れるわけないのに。
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