都合のいい女になるはずが溺愛されてます
なんで意地張っちゃったんだろう。
1時間近くかけて支度をした私は先に指定された居酒屋に入り個室の席に通された。
そしてそわそわして待ってる自分がいることに気がついて後悔していた。

クズだから約束をすっぽかすことも有り得るのにこんな気合い入れちゃって。
まるで私が意識してるみたいだ。

はあ、とため息を着いた時個室の引き戸が開いた。
入ってきたのは店員ではなく佐久間だった。


「……あれ、すみません。席間違っちゃったみたいで」

……は?

「佐久間さん、まさか飲みに誘った女の顔を忘れたわけじゃありませんよね?」

「は?遠藤さん!?化粧したら印象変わるね」


ちょっと意地悪な言い方をしたら佐久間はとてもいいリアクションをしてくれた。
おかげで少し気分がいい。

自分で言っちゃなんだが私は化粧映えする顔だ。
確かにひっつめ髪を下ろしてるし、職場ではベースメイク以外ほとんどしていないから誰か分からないかもしれない。


「マジか……えぇ……?めっちゃかわいいね」

「ありがとうございます」


佐久間は私の顔をまじまじと見つめて手で口を覆う。
なるほど、女子の欲しいリアクションと言葉を自然に口に出せる。
彼がモテる理由のひとつかも。


「俺こんなにかわいい子と飲めるの?ラッキー」

「おっさんくさ」

「あは、遠藤さんって結構容赦ないね。でも俺その方が好き」


佐久間は弾けるような笑顔で私の正面に座る。
態度が違う。いや、いつもこんな感じだったっけ?


「てかもったいねー、こんなにかわいいなら職場にも化粧してくれば?」

「総務が調子乗ってると思われるので嫌です」

「じゃあ俺の前にだけでいいよ」


歯の浮くようなセリフ、見え透いた嘘。
一体その涼しい笑顔で何人の女を泣かせてきたんだろう。
笑う佐久間は詐欺師に見えた。
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