都合のいい女になるはずが溺愛されてます
ショーが始まる前に観客席に座ってやっと手を解放された。
服でこっそり拭いていたら佐久間がこっちを見てきたので手を止めた。


「仁奈といるのすっごい楽、ストレスフリー」

「なんですか、急に」

「出かけるの大概ダルいって思うけど仁奈はそう思わねーの不思議だなって」

「ふたりで出かけるの初めてだから新鮮に感じるだけじゃないですか?」

「そういう初デートのドキドキはさすがにないわ。中学生じゃあるまいし」


じゃあドキドキしてる私は中学生レベルってこと?
場数をこなしてきた佐久間はもうときめかないかもしれないけど、女の子は誰だってふたりきりは緊張すると思う。

特に佐久間は顔が本当にいいから。


「でも俺ら、相性いいかもね。いろいろと」

「……」

「なんでそんな顔すんの。相性って大事なことだから」

「いえ、『いろいろと』を強調するのが佐久間さんらしいなと思って」

「まんざらでもないくせに」


ニヤッと意地悪く笑う佐久間の腕をつねろうとしたら、会場に音楽とナレーションが流れ出した。
すると私から視線を外してショープールを眺める。

うーん、今ここでちょっかいかけたらウザイって思われそう。
仕返ししたかったけど、楽しそうな佐久間の横顔を見ていたらショーに集中することに決めた。
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