都合のいい女になるはずが溺愛されてます
館内を大方回って、満足した私たちが施設を出たのは16時だった。


「あ、今日飯行くことになったからとりあえず仁奈の家まで送る」


車に乗って10分ほど走った頃佐久間が口を開いた。
……その相手は、女の子?
ああ、やだな。こんなことを考えるようになってしまったなんて。


「男だから安心して」


だけど佐久間は決まってその不安をかき消してくれる。


「新卒の岡田。田舎から上京してきて右も左も分からないらしいから、とりあえずうまい飯屋教えてやろうと思って」


そういえば佐久間の所属する営業一課に新卒の子がいたような。


「岡田くん、島根県出身でしたっけ?」

「え、鳥取じゃなかった?分かんねーけど、俺の言ってることが本当か不安なら明日岡田に聞いて」

「聞きませんよ。付き合ってるわけじゃないのに」


投げやりに答えたら佐久間は黙ってしまった。
あ、今の発言ダメだったかも。


「仁奈って付き合ったら束縛するタイプ?」

「相手によります」

「俺は束縛されそー」


笑いながら私の言葉をかわした佐久間。
少しだけ期待したのに『付き合う?』とは絶対聞いてくれないんだ。
可能性は限りなくゼロに近いのに、わずかな望みにかけようとする自分の浅ましさに悲しくなった。
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