都合のいい女になるはずが溺愛されてます
一喜一憂する心で佐久間と同じ空間にいるのはとても疲れる。
満ちるのも欠けるのも佐久間の言動ひとつで大きく変わってしまうから。


「佐久間さん、今日はありがとうございました」

「はーい」


終始話しながら私の住むマンションに着いたのは18時頃。
笑顔で愛想よく伝えたのに返ってきたのは間延びした返事だけ。

それどころか目も合わせずに上着のポケットをゴソゴソ探っている。
……もう車から出た方がいいな。


「あ、仁奈待って」


シートベルトを外してドアに手をひっかけたら、佐久間に声をかけられた。
すると上着のポケットからなにか取りだして拳を私の前に突き出した。


「はい、あげる」

「……なんですか?」

「仁奈だけじゃフェアじゃないかなと思って」


両手でそれを受け取ったらチャリ、と金属音がした。
それはラッコのキーホルダーがついた鍵だった。


「さすがにタカアシガニはなかったわ」


冗談を言う佐久間の顔と手の中の鍵を交互に見る。
これ、もしかして佐久間の家の鍵?
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