都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「なんで?」


分かりやすく私の声は震えている。
きっと動揺してるのバレバレだ。


「なんでだろうね、俺の気まぐれ。いつでも来ていいよ」

「意味が、分かりません」

「これ渡したら、今は仁奈しかいないって信用してもらえるかと思って」

「なんで信用して欲しいんですか?」


あえて頭の悪い質問を繰り出すと佐久間は手の中の鍵を見つめて口を開いた。


「それは……あー、いやなんでもない。また明日」


信用して欲しい理由、それを一番答えて欲しかったのに、なんでそこを濁すの?

一番知りたい理由が分からないのに喜びが勝って感情がぐちゃぐちゃだ。
初めて目に見えない“特別”を形にしてくれた気がして嬉しかった。


「今週、これ使います。また明日です」

「分かった、今週は俺ん家ね。今度はハンバーグ食べたいから作って」

「はい、頑張ります」


満ちてあふれた心で車から出て、感情に体が追いつけず呆然と立っていたらスマホの通知が鳴った。


《そういえば泣かそうと思ってたの忘れてた》


佐久間からのメッセージ。くだらない内容だけど嬉しいなんてどうかしてる。
この日、私はやっと佐久間が好きなんだと認めた。
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