都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「ありがとうございます、事務室までお願いします」

「分かりました!」


元気に返事をして私の隣を歩き出した岡田くん。
横顔をちらっと見て、アイドルっぽいイケメンだと思った。
小顔で目がくりくりして、佐久間が柴犬なら豆柴って感じ。


「遠藤さん、ラッコ好きなんですか?」


軽々荷物を運ぶ岡田くんは急にこっちを見て質問してきた。


「は、はい?いや……これ貰い物で」

「かわいいっすね!」

「えっと、ありがとうございます……?」


パワフルに褒められて押しに負けた。
……たぶんこの子は営業で成功するタイプと思う。
大して仲良くない人間にグイグイいけるのはすごい才能だ。


「ところで、いつもこんな重い物運ばされてるんですか?」

「手が空いてるのが総務の私くらいなので。でも仕事なので平気です」

「無理しちゃダメですよ、台車使ってください。ムキムキになっちゃいます」

「ムキムキにはならないかなぁ」


話しかけられて嫌と思わない。むしろおかしくて笑ってしまう。
こういうのが天然の人たらしなんだろうな。


「でも結構筋トレになりますねこれ」


ふんふん言いながらダンボールを上下させる岡田くん。
おもしろい子だな、佐久間がかわいがるのも頷ける。


「鍛えてるんですか?」

「はい、佐久間先輩に細すぎるって言われて最近筋トレ始めました。
この前も食トレだって言ってめちゃめちゃ食わされたんですよ」

「へぇ〜」


ほんとに一緒にご飯行ったんだ。
いや、疑ってはないけど事実確認ができてちょっと安心した。



「岡田、奢ってもらってなんだその言い方」


が、安心したのも束の間、前方に佐久間が現れて驚いた。
私はあわてて手に持っていたラッコを背後に隠した。
< 97 / 263 >

この作品をシェア

pagetop