2番目の恋
「こんにちはー」

笹崎がベビーカーの中のさくらに声を掛ける。

「すっげえ目クリクリしてんな!顔そっくりじゃん。」
「まあね、私の子だから。」
「よく美織が母ちゃんやってんなー。」
「うるさい。」
「『え〜むり〜うめな〜い』とか言いそうなのに。」
「似てないから。」

あれから8年。

全然会ってなかったのに、お互いまだ18歳で止まってるみたい。

全然変わってない。

「今日父ちゃんどうしたの?」

笹崎が言う。

「父ちゃん?うちの?」
「パパ、パパ。仕事?」
「ああ・・・」

旦那のことだ。

私はベビーカーの中の咲良を見ながら、胸がキリリと痛むのを感じた。

口角を上げて笹崎を見る。

「私、独身なの。シングルマザー。」

きっと笹崎は憐れむかな?
いつものことだ。
一瞬、みんな聞いてはいけないことを聞いてしまった、という顔をする。

慣れていた。

なのに。
笹崎は急にパッと表情が明るくなった。

「すげえ!かっこいいじゃん。」

そう言った。

私があっけに取られていると、咲良を乗せたベビーカーをひょいと持ち上げて階段を登り始めた。

「ちょっと!危ないって!」
「だーいじょーぶだって。俺毎日もっと重いもん運んでっから。」
「えー?」

笹崎はひょいひょいと階段を登っていく。

その広い背中を見上げて、ここんところ人に頼ることを否としてきた私は、なんだか新鮮な気持ちに包まれる。

笹崎ってやっぱりいい奴。

それだけなんだけど。
それだけは高校時代いつも思ってた。

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