2番目の恋
水族館
笹崎から水族館に誘われたのは翌々週のことだった。

水族館前で待ち合わせ。
私はベビーカーに咲良を乗せて来た。

最近、咲良は抱っこ紐もベビーカーも嫌がるようになった。
たどたどしくも走るような足取りも見えてきた。
泣き声も大きくなってきた。

だから電車の中は緊張する。

どんなに寛容な人たちが増えてきたって、公共の場は気を使う。

たった3駅だけど、揺れる車内、両足で踏ん張る。
座るとベビーカーが邪魔になるから。

水族館前の駅に着くと、パラパラと人が降りた。
意外とそう多くはない。

ホームに降りると、目に飛び込んで来る姿があった。

「おはよ、どうしたの?」
「ああ、ベビーカーかなと思って。」

笹崎はエレベーター前のベンチに座って待っていた。
水族館前で待ち合わせだったのに。

笹崎の姿を見て咲良が「だーだ!だーだ!」と騒ぐ。
もう笹崎のことをとっくに覚えた。

咲良の目線までしゃがんで頭を撫でる笹崎。
抱っこをせがむ咲良。

「抱っこしていい?」

突然聞かれてハッとする。

「うん、いいよ。」

私がそう答えると笹崎はベルトを外して咲良を軽々と抱っこする。
私の抱っこの時よりずっと目線が高くなって嬉しそうな咲良。
すっごく笑う。

誰も乗ってないベビーカーを押してエレベーターに乗り込む。

咲良のすごく嬉しそうな笑い声が狭い箱の中に響く。

最近、咲良は笹崎と二人でも平気だ。

こんな関係がずっとずっと続けばいいんだけど。
人の心は分からない。

笹崎だって自分の子どもが欲しいはずだし、なんなら私じゃなくて他の子の方がいいんじゃないか。

もし万が一、笹崎との間に子どもができても、笹崎は咲良と分け隔てなく愛情を注いでくれるだろうか。

そんなところまで考えていた。

考えたってどうしようもないのは分かっているけど。

未来のことは誰にも分からない。

咲良は時々抱っこから降りて歩きたがる。
笹崎はたまに注意しながら咲良を追いかける。

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