2番目の恋
短い商店街を抜けるとあっという間に田んぼ沿いの何もない道に出る。
たまにすれ違う車。

笹崎はハイテンションで話し続ける。

「今仕事何やってんの?」
「医療事務。」
「へー意外。あ?俺?」
「聞いてない、聞いてない。」
「俺、支援学校の先生。」
「えー、めっちゃ意外なんだけど!先生なんてできんの?」
「向いてんだって、俺。」

中身があるようなないような、そんな会話。
なのに会ってなかった8年間が埋められていく気がする。

咲良はおせんべいを手に持ったまま寝てしまった。
笹崎がベビーカーを押してくれている。

ほのかに暖かい土曜日。

いつになったら公園につくんだろう。
ふと思ったけど、まあ、どうでもいいやと思った。

そして案の定、山道に差し掛かって序盤の方で私は諦めた。

「これは無理だな。」

どこまでも延々と続きそうな山道を見上げて呟く。

「だからバスかタクシーって言っただろ。」

来た道を戻りながら笹崎が笑う。

「じゃあなんでここまでついてきたの。」

すっかり疲れた。

「面白そうだったから。」
「暇人か。」

そう言いながら私は気付いていた。

笹崎は今の今まで一言も諦めるようなことを言わなかったこと。
ベビーカーをずっと押し続けてくれていたことを。

そう、笹崎はいい奴だ。
あの頃からずっと。

駅に向かってまたひたすら田んぼ沿いの道路を進む。

お腹が空いた。
咲良も起きてしまった。

「なんか腹減ったな。」
「お昼食べるタイミング逃したー。」

笹崎と目が合う。

「じゃあ駅前でなんか食ってくか。」
「そうしよー、そうしよー。ね、咲良?」

ベビーカーの中で咲良が笑う。

「めっちゃかわいいな、咲良。」

笹崎がかがみ込んで咲良を覗く。

「ちょっとー、うちの子狙わないでね。」
「失礼な!」

笑い声が田んぼに響く。
のどか。

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