ペルソナ


同時刻。
一颯は鉄のドアを抉じ開けようとしていた。
爪をドアとドアの隙間に入れ、力任せに引く。
だが、ドアは開かず、一颯の爪が割れ、剥がれた。






「ッつ!」






血が滲んで、痛みが走る。
それでも一颯はドアをどうにか開けようと蹴り飛ばしたり、体当たりを繰り返す。
何度もそれを繰り返しているせいで、今度は腕の皮膚が切れ、血が伝う。






「クソ……っ!」






一颯は焦りで乱れる呼吸を落ち着かせるように、膝に手を当てて息を吸う。
そして、少し離れたところで意識を失ったままの汐里に近づいて、脈を測る。
まだ脈はあるし、まだ呼吸もしている。
そのことに一颯は安心したように、深く息を吐く。







此処に閉じ込められて、早二時間。
まだ半日は経っていないが、神室の言うことが何処まで信じられるか分からない。
半日も立たずに汐里は死んでしまうかもしれない。
半日も立たずに毒ガスが排出されるかもしれない。
それが一颯から冷静さを奪う。






だが、不思議なことに汐里に触れることで冷静さを取り戻せた。
もう何度こうして彼女に触れたか分からない。
彼女に心音を、体温を感じることで冷静になる。
と同時に、早く出ねばという焦りが生まれる。






「スマホは使えない……。どうやって、赤星さん達に居場所を教えるか……」





この倉庫は電波類を遮断する設計になっているようで、スマートフォンは使えなかった。
インカムも使えず、助けを呼ぶことが出来ない。
だから、汐里が赤星に言い残した言葉だけが希望だった。
希望だが、居場所が分からなければ希望も絶望でしかない。





「ペルソナ……いや、神室志童……。アイツだけは絶対許さない……っ!」






感情を落ち着かせるために汐里の手を両手で握り締める。
そんな時、ドアの鍵が開く音がした。
もしかしたら、神室志童かもしれない。
毒ガスではなく、自らの手で殺しにきたのかもしれない。
そう思い、身構えるが杞憂だった。






「二人とも無事か!?」






「し、司馬課長……」





開けられたドアの所にいたのは司馬だった。
司馬は一颯達に駆け寄ると、ほっと肩を落とす。





「無事だな、良かった……」






「司馬課長、何故此処が?」






司馬に汐里が神室に接触することを話していたか、一颯には分からない。
それに、何故司馬が《七つの大罪》の拠点の場所を知っていたのかも謎だ。
聞きたいことが多すぎる。
だが、疲労で一颯は頭が働いていないため話をまとめられなかった。







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