幸福音
「ただいまーっ」



男の子の声が聞こえる。

小学生くらいの男の子の声。


椎名の弟が帰ってきたのか？

椎名は俺に視線を向ける。


連れてきてもいい？

目が、そう言っていた。


俺が頷くと、椎名はバタバタと部屋を出て行った。


しばらくすると、椎名がランドセルを背負った男の子と手を繋いで部屋に入ってきた。



「こんにちは」



椎名の弟か。

目は合わないものの、俺の立つ方向に向かって挨拶をしている。



「こんにちは」



俺も弟に挨拶をする。

椎名の弟はランドセルを床に置いた。

それから、椎名が差し出した椅子に座る。


椎名は弟に何かを話しかけたあと、電子ピアノの近くに立った。

目配せをしてから、指を鍵盤に置く。


指が動く。

譜面も頭の中に入っている。

譜面どおりに音を奏でていく。

椎名の透き通る声と、電子ピアノの機械的な音が合わさる。
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