「あんたじゃない、とは言ってないからね」
話の内容が内容だということと、時間帯が夕飯時だということも相俟って、ふたりでよく行っていた個室のある料亭へと足を運んだ。
外部から遮断されたそこへ通され、注文を終える。すぐに話を始めるのかと思いきや、料理が揃ってからにしようと彼は言う。どのみち、食事の途中で席を立つつもりはなかったから私もそれに同意した。
料理が揃うまでは、話すこともないし、無言タイムか。
そう思っていたのに、「寒くないか」だの「気分悪くないか」だの「身体しんどくないか」だの、出るわ出るわ、私を心配してますと言わんばかりのセリフのオンパレード。
本当に心配してくれてるなら、待ち伏せとか最初からしないで欲しいんだけど。
なんて悪態を飲み込めば、それとほぼ同時に注文した料理が運ばれてきた。
「…………なぁ、」
「何」
「……誰の子供か、分かってんの、か?」
いただきますを言ってから、数分間はお互い無言で箸を動かしていた。食べ終わってからかなと私も催促はせずに黙々と食材を咀嚼していたけれど、どうやら彼はタイミングを計っていたらしい。
「分かってる」
「……けっ、こん、すんのか……そいつ、と、」
少し上擦った問いかけに、ぐらり、決意が揺れる。
やめて欲しい。そうやって、ただ離れていったのが惜しいだけのくせして、大切なものを失った感を出すのは。
親友に別れを告げられ、縁を切られたときも。親友に復縁を迫るもすげなく断られた挙げ句、警察沙汰になったときも。親友が婚約したと知ったときも。彼はたださめざめと泣いていただけだった。親友に泣き落としなんて通用しない。足掻いても無駄だと知っていたからだろう。
「……しない。する気もない」
「……そ、うか、」
だからこそ、彼の態度が不快で仕方がなかった。