「あんたじゃない、とは言ってないからね」
私なら泣き落としが通用すると、そんな風に思われているだろう現状が、ひどく煩わしい。
「……あの、さ、」
「何」
「……何で、結婚しねぇの……? その、そいつと」
さっさと食べて、さっさと帰ろう。
そう思って咀嚼のスピードを早めようとすれば、おずおずと、様子を伺いながら吐き出されたその言葉。思わず、箸が止まる。
「……相手が、私を好きじゃないから」
ぱちり、一度だけ瞬いて、ゆっくりと言葉を返す、というよりも、己に向けて言い聞かせるように音を吐く。
そう、好きじゃない。目の前の男は、私を好きじゃない。
「……まぁ別に……それでも良かったんだけどね、ひとりの時は。私は、彼が好きだから」
「……」
「でも今は、この子がいる」
するりとお腹を撫でれば、思わずゆるむ口元。
他人の気持ちは、どうすることも出来ない。こっちがどれだけ愛を注ごうと、相手が受け皿を持っていないのならそれは何の意味も成さないからだ。
けれど、己の子は違う。きっと、与えた愛情の分だけ愛し返してくれる。
「だからもう、いいの。この子さえ、いれば」
ねぇ、貴明。
私はね、愛されたいの。