「あんたじゃない、とは言ってないからね」
「っ俺は!」
離してと掴まれていた手を払い、バックを掴み直したところで、唐突に吐き出された声の大きさに、びくっと肩が揺れた。
「お前が……! っさ、ゆりが! 好きだ!」
思わず、息を飲んだ。
次いで、己の目が意図せず見開いたのが分かった。
「半年くらい前から、ずっと言おうと思ってた……けど、怖くて言えなかった」
「……」
「誘うのは全部俺からだったし……その、あいつ、と、詩乃とのこともあったし……なんつうか、罪悪感みてぇなのもあって……でも、だからってこんな、ずるずるした、曖昧な関係は嫌だって思った。俺と会ってねぇ日は別の男と会ってんのかなとか、そういうの考えただけでもう、ダメだった……みっともねぇ嫉妬ばっかして、気が狂いそうだった」
「……」
「今までが今までだったから、嘘つけとか思うかもしんねぇ……信じられねぇって言われたら、反論できねぇ」
「……」
「けど俺は、紗由理が好きだ。その、お腹の子だって、お前の子だってだけで愛おしく思えるくらいには、好きだ」
「……」
「……本当は、お前に関わらねぇのが一番だって分かってる。お前が決めたことを、覚悟したことを応援すんのが、俺にできる唯一のことだろって、思う。でも、無理だ。無理だった。なぁ、頼む……お前が、他の誰かを好きでもいい。俺のこと好きになれねぇでもいいから、」
ゆっくりと、まぶたが落ちて。
ゆっくりと、まぶたがあがった。
「俺と、家族になって」
「っ」
瞬間、ぶつかって、重なる視線。「は」と息がもれて、そこでようやく私は、まともに呼吸ができた。