「あんたじゃない、とは言ってないからね」
「……どうせ……あんたの家族に猛反対されるよ」
「別にされたっていい。俺の人生だ。一緒の墓に入る相手は自分で決める。そんなことより、お前の両親に俺のが反対されんだろ、きっと」
「されたら諦める?」
「拐う」
「は?」
「もちろん、やれることは全部やる。でもそれでもダメだったら、悪ぃけど子供もろとも拐わせてもらう」
「……変なやつ」
「何て思われようが俺の気持ちは変わんねぇぞ」
「……そう」
「ああ」
「……信用できない、って言っても?」
「一生かけて証明する。お前だけだって」
「どうせ詩乃にも言ってたんでしょ、そういうこと」
「っそ、れは、否定しねぇよ……あの頃は、詩乃しか見えてなかったし……でも今は違う。紗由理しか見てねぇ、から……死ぬまでに、ちょっとでも信じてくれたら、嬉しい」
「……そう」
「ああ」
「……まぁそこは、お互いさまだし……ね」
「…………ん」
「じゃあ、家族になるにあたって、ひとつ、謝りたいことがあるんだけど」
「……なってくれんの……?」
「女に二言はないよ」
「マジか……!」
「で、さ、」
「あ、おう」
「この子の、父親についてなんだけど」
視線を落として、するりとお腹を撫でる。そうしてまた視線を戻せば、ゆらりと彼の瞳が揺れた。
知りたい。だけど、聞きたくない。
そんな相反する感情が混ざりあった彼の瞳は、分かりやすく嫉妬に侵され、少し濁っている。
「私さ、あんたとこういう関係になってから、あんた以外とはシてないよ。セックス」
「……え?」
「勘違いさせるようなひどいこと言ってごめんね……でもさ、私、」
情報を上手く処理できないのだろう。にやけたいのと泣きそうになっているのが混ざりに混ざった不恰好な彼の表情を見ながら、私はゆっくりと言葉を吐き出した。
「あんたじゃない、とは言ってないからね」
ー終ー