「あんたじゃない、とは言ってないからね」
始まりは、何だったか。
相手は酒に酔った故の過ちだった。もちろん私も酒を飲んではいたけれど、過ちを犯すほど酩酊はしていなかった。というより、意識がはっきりしていたから、だろう。
欲がわいた。相手が、彼が、親友の恋人だと分かっていても、止められなかった。だってずっと、私は彼が欲しかったから。欲しくて欲しくて、堪らなかった。彼が親友に惹かれるよりも前から、私は彼に惹かれていた。親友が彼を好きになるよりも前から、私は彼を好きだった。
チャンスだと、思ったんだ。心が手に入らないのはもう理解していたから、身体だけでも、って思ってしまった。
朝起きて、真っ裸でベッドで寝ている私と使用済みの避妊具を見たときの、酒の抜けた頭で状況を理解した彼の顔は、今でも忘れられない。ごめんだとか何だとか、とにかく何かを言おうとした彼の言葉を遮って、「別に誰にも言わないよ。私も彼氏いるし。黙ってればこういうの、分かんないしね」と平然と言ってのけた私は、自分でもクソだなと思う。
そこからずるずると続いた身体ありきの関係。終止符はいつでも打てたのに、打たなかったし、打たせなかったのは、やっぱり彼のことを諦められていなかったからなのだろう。当たり前だけど、後悔したし、罪悪感にだって苛まれた。
でも、やめられなかった。どんな形でも、一度欲したものを手にしてしまったら、それを手放すのはひどく難しい。それどころか、私はさらに欲を出した。心は無理でも、身体を独占したくなった。なって、しまった。
自分の恋人はさっさと捨てて、親友が気付くように分かりやすく痕跡を残していた当時の私は、きっと相当醜くかったに違いない。あっさりバレて、ふたりして縁を切られたのがだいたい一年半くらい前。バレたその日から、およそ八ヶ月前、親友が婚約したと知って浴びるように酒を飲み泥酔した彼とまた身体を重ねたあの日まで、私と彼の縁も切れていた。