「あんたじゃない、とは言ってないからね」
「大切な存在ができた」
思った以上に、呆気なかったなと思った。
一方的に通話を終了させたけれど、再度着信もなければ、メッセージを送ってもこないということは、つまりそういうことなのだろう。
いや、分かってたけど。虚しいな。
ため息を吐いて、ぼんやりと空を眺める。ゆっくりと流れる雲に、ゆっくりと落ちていく太陽。変わらないようで、少しずつ変わっていく景色を見ていたら、いつの間にか、辺りが橙に染まり始めていた。
帰ろう。誰に言うでもなく、立ち上がって、自宅までの道のりをトボトボと歩く。
仕事、いつまで働けるだろう。病院、どこに通おう。家、今のとこ単身者用の物件だし引っ越そうかな。貯金、出産してから仕事に復帰するまでの生活費足りるかな。
ぐるぐると色々思案していたら、気付けば、マンション前。エントランスを抜けて、エレベーターに乗る。
やっぱり引っ越しは費用もかさむしやめておこうかな。
「紗由理」
「っ」
なんてことを考えながら到着した階で降りた瞬間、引かれた腕に、呼ばれた己の名前。
「……たか、あき、」
その方向に視線を向ければ、件の彼がそこにいた。