「あんたじゃない、とは言ってないからね」

 めでたい頭ね。
 唖然としている彼にそう吐き捨てて、自分が入れる分だけ残りの隙間を開いて、すぐさま扉を閉じる。
 ガチャン。施錠して、チェーンもかける。ガチャガチャ、ドンドン。扉の向こう側から、「待て」だの「どういうことだ」だの「開けてくれ」だの聞こえるけれど、私は靴を脱いで、さっさと奥の部屋へと避難した。
 バックを足元に置いて、ぱたりとソファに倒れ込む。
 ああ、疲れた、眠い。どうやら、玄関も静かになったようだし、少し寝ようか。

「…………しつこい」

 そう思ったところで、バックの中からぴりりと音が響く。取り出して、相手を確認して、バックに戻す。一度、二度、三度。鳴っては切れ、また鳴っては切れたそれにため息を吐けば、今度はぴこん、ぴこん、ぴこん、と立て続けにメッセージを受信した音を響かせた。
 やっぱり、引っ越そう。家を知られているのはなかなかに面倒だ。
 決心して、私はゆっくりと、目を閉じた。
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