身代わりとして隣国の王弟殿下に嫁いだら、即バレしたのに処刑どころか溺愛されています
「夕飯、どうしようかなあ……」

上京したすぐの頃は、週に1回は母が来てくれて、料理を教えつつ作り置きのおかずを残していってくれた。
けれど、年老いた祖母を置いてくることが難しくなってきて、最近では完全に自力で自炊している。それなりに慣れてきたし、ネットを使えば作り方ぐらいすぐに調べられるから、それほど困ってはいない。


冷蔵庫の中の食材を思い浮かべる。そんなに大した材料は残ってなかったかも……


「遅くなっちゃうし……ここは楽に作れるカレーかなあ……」

確かルーはあったはずだ。ご飯も、冷凍しておいたものを使えばいいし。
うん。今日は手抜きでいいや。



それにしても、夕日が眩しい。目を細めながら、家路を急ぐ。


「あっ、猫!!」

歩道の片隅に真っ白な猫を発見した。
道を渡りたいのだろうか?及び腰になっているけれど、その視線は車道を挟んだ向こう側に注がれている。

「猫ちゃん、諦めなって。ここを渡るのは危ないから」

見通しの悪い道路だし、夕日が眩しくて一番危険な時間帯だ。渡るなんて無謀すぎる。

野良猫か飼い猫かはわからない。とにかく、なんとか車道から遠ざけたくて、そろりと近付いていく。驚かさないように、慎重に……




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